Red Notebook 「シェイプ・オブ・ウォーター」 赤と緑と腐りゆく指 忍者ブログ
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ディズニーとか映画とか。All I can say is this: listen to me. My name is Raito. That is not my real name.
2024年04月26日 (Fri)
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2018年03月03日 (Sat)

 見てきましたよー、今年のオスカー大本命こと「シェイプ・オブ・ウォーター」。
 ビジュアルの美しさはもちろんのこと、とにかく見ながらずっと「デル・トロ監督は優しい……」と思わずにいられない、穏やかにたゆたう水のような優しさ=愛を全編に湛えた映画でした。オールド・ハリウッドへのラブレターであると同時に、これまでのハリウッド史で疎外されてきたものたちへの愛の歌でもあるという……なにこれ愛にあふれすぎてる、優しい。


 異形のものと人間の女性のラブロマンス、という点から現代版「美女と野獣」?なんて言われてましたが、「敵は有害なマスキュリニティ(男性性)」という話だったので、その点も「有害なマスキュリニティ」であるガストンを悪役に据えたディズニー版「美女と野獣」っぽかった。(※なお、ここでの「現代版」は舞台が現代という意味ではなく現代的な価値観にアップデートされているという意味)
 ちなみにギレルモ・デル・トロ監督は、「美女と野獣」を「愛で相手を変える(変わらなければならない)話」としたうえで「シェイプ・オブ・ウォーター」は「何も変わらずありのままの相手を愛する話」と語っていますね。

アカデミー賞最多候補『シェイプ・オブ・ウォーター』監督が描く異色の純愛 野獣が王子に変わるのは”真実の愛”なのか
●腐りゆく指

 悪役を演じるのは我らがマイケル・シャノン先生です。「マン・オブ・スティール」以降シャノン先生に心を奪われているシャノン先生過激派オタクなのでシャノン先生の話ばっかりするんですけど、シャノン先生はいつも最高です。
 シャノン先生演じるストリックランドの指は男性器というか、有害なマスキュリニティのメタファーなのかなと思って見てました。半魚人に指を食いちぎられたあと、元帥に「親指と人差し指と中指は無事ですよ」と報告するところ、原語だと"thumb, trigger finger, pussy finger"と言っていたのが象徴的ですが、彼にとって「指」とは「銃を撃つためのもの」であり「女のアソコにつっこむもの」なんですよね。そして彼の指は悪臭を放ちながら腐っていく。
 イライザにとって指はコミュニケーションの手段であることとの対比になってるのかな。
 そして、彼が絵に描いたような「郊外の幸せな家庭」を持つ男、だったの「ヒエーー!!」ってなりました。いや、すごくないですか?悪役のご家庭が絵に描いたような郊外の幸せな家庭なんですよ?
 前にティム・バートンが「(自分が育った)郊外の清潔できちんとしている空気が苦手で、そんな郊外を怪獣が破壊するところを夢想していた」みたいなことを語っていたような気がしたのですが、そんなことを思い出しました。でも今検索してみたらバートンがそんなことを語っている記事は見つからなかったので私の妄想かもしれない。
 それに対して物語の主人公は南米からやってきた異形のもの、障害のある女性で、味方は有色人種の女性、ゲイのアーティスト、共産主義者のスパイ(!)という……
(ところで、「南米からやってきた異形のもの」って……)
 ストリックランドは主人公たちと対照的に「社会のメインストリームを牛耳る属性」を持ちながら、同時にそのしんどさも抱えているところがガストンより一歩踏み込んだキャラクターだと思います。「いつまで自分がまともな男(decent man)だってことを示し続ければいいんですか」と心情を吐露するシーンは辛かったですね。「まとも」のくくりは健常な異性愛者の白人男性にとっても苦しい。「まとも」の枠から外されるのはほんとうに一瞬で起こることだから。
 この「周囲に認められる男らしさを求められることの苦しさ」はギレルモ・デル・トロが製作に携わってる「ブック・オブ・ライフ 〜マノロの数奇な冒険〜」でも描かれているので、ギレルモ・デル・トロ監督はそういうことに意識的なんだと思います。「ブック・オブ・ライフ」、気になった方は是非見てくださいね。「ブック・オブ・ライフ」と同じくメキシコの死者の日を題材にした「リメンバー・ミー」ももうすぐ公開ですし。私は「ブック・オブ・ライフ」のことを「男の子版アナ雪」と呼んでいるのですが、なんていうか、そんなかんじです。

●赤と緑

 ため息が出るほどビジュアルが美しい本作ですが、とりわけ印象に残ったのが赤と緑の対比でした。
 緑はキャンディーの色、ゼリーの色、パイの色、キャデラックの色(ティール!)。赤いゼリー、赤いコート、赤い靴、赤い血。緑は「周りから求められる姿/かりそめの姿」で、その対局にあるのが赤「ありのままの姿」なのかな。「周りから求められる姿」に応えようとするストリックランドは緑色のキャンディや緑色(ティール!)のキャデラックとともに描かれる。家で緑色のゼリーも食べていた気がする。ジャイルズの描いた赤いゼリーは緑色に変えさせられる。緑色のパイは美味しくないけど、美味しいと嘘を吐き続ける。
 あまり確信がないのですが、緑色のヘアバンドやコートを着ているシーンもあったイライザが、最後は赤色が印象的な服装になるのも「ありのままの姿」ということなのかも。
●突然ですがここでトム・アット・ザ・ファームの話です
 ところで現代版「美女と野獣」の話といえば、「トム・アット・ザ・ファーム」も現代版「美女と野獣」っぽいですよね。暴力的な男に幽閉(?)される美男。「美女と野獣」を因数分解すると「シェイプ・オブ・ウォーター」と「トム・アット・ザ・ファーム」になるのかもしれません。私は「男×男の美女と野獣が見たい!」って立ち上がっては「あ、それ『トム・アット・ザ・ファーム』だわ…」って着席する運動を年に365回くらいしてます。
 「美女と野獣」と「シェイプ・オブ・ウォーター」、「美女と野獣」と「トム・アット・ザ・ファーム」というふうに見比べるのも楽しいんじゃないかと思います。ていうか全人類「トム・アット・ザ・ファーム」を見てください。
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