Red Notebook 『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』王冠を投げ捨てて海へ~ガールズ・エンパワメントとしてのアリス 忍者ブログ
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ディズニーとか映画とか。All I can say is this: listen to me. My name is Raito. That is not my real name.
2024年11月23日 (Sat)
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2016年07月06日 (Wed)

前作『アリス・イン・ワンダーランド』があまりにも「なんじゃこりゃ」だったのであまり期待していなかったのですが、ミアちゃんの不機嫌アリスはやっぱり好きだし、アラン・リックマンの遺作だし、監督は『ザ・マペッツ』の人だし……ということで見てきました。

そうしたら驚いたことに、前作よりずっと面白かったです。
※以下ネタバレありの感想です。


◆ガールズ・エンパワメントとしてのアリス
 今作のアリスは、船乗りとして世界を回り、ビジネスへの意欲も持った成長した女性として登場します。あまりにびっくりしたので「そうか、これはアリスの空想なんだな」と思っていたらガチだった。(ところで、意地悪な妄想としては実はあの部分も含めてアリスの空想で、本当のアリスは精神病院の中…という『サッカーパンチ』方式の解釈もできなくもない、かもしれない。主題歌 “Just Like Fire”のPVを見ると余計に。)
 
 アリスの船Wonder号はアリスの持つ好奇心の象徴であり、wonderを持ってして世界を見て回る、というのはまさにアリスの物語のキモなわけです。
 しかし、女性が船乗りというのはこの時代の常識からすればとんでもないことです。アリスは彼女を疎む嫌な雇い主や、はては母親からも、船乗りを諦めろと言われてしまいます。
“You can’t just make things the way you want, Alice. Every woman has to face that. I had to.”
「女性は自分の思い通りにはできないということを受け入れないといけないのよ、アリス。私だってそうだった。」
というセリフから、これが「アリスが自分の思いを貫くことを諦めない」話なのだな、ということがわかります。
アリスは自分の着たいものを着ますし、精神病院に入院させられ「Textbook case of female hysteria典型的な女性のヒステリア(ヒステリー)」と言われようと、(文字通り)鎖を外して逃げ出し、女がやることじゃないと言われた職業に挑戦し続けます。
……これらの要素はなかなか好きなのですが、『マレフィセント』もそうなんだけど、リンダ・ウールヴァートンの描くフェミニズムものって、安直に男を嫌な奴として描きすぎるところが安っぽくて居心地が悪くなるのがちょっと……。
 
 ところで、「ディズニーによる過去アニメ作品の実写リメイク作」というくくりで語るのなら、ガールズ・エンパワメントを描くのに「アリス」を選んだのはなかなか上手いチョイスだったのではないかと思います。
 以前の「エルサにガールフレンドを」論争の時に気になって数えてみたのですが、ウォルト・ディズニー・スタジオ製作の長編アニメーション映画のうち、女性が主人公かつ恋愛をしない作品というのはとても少なくて、「ふしぎの国のアリス」、「リロ・アンド・スティッチ」、「ズートピア」くらいなんです。(「ホーム・オン・ザ・レンジ」は見たことないので割愛)「アナ雪」はエルサは恋愛をしないので半分だけ当てはまります。
 アリスとリロは幼い子供なので恋愛要素が無いのは当然としても、エルサや「ズートピア」のジュディはほんとうにエポックメイキングなキャラクターだったんだな…というのは置いといて。
 安易に「恋愛に回収されない」形で女性の物語を描こうとするなら、アリスをこういうキャラクターとして描くというのは、なかなか考えたなと思います。


◆アリスはプリンセスにはならない

 ディズニーが「鏡の国のアリス」を映画化すると聞いたとき、私はディズニーはきっとアリスを「プリンセス」にするつもりなのだろうな、と思いました。ディズニーストアで、通常版のアリスドールと、それよりもいくぶん煌びやかな衣装に身を包んだ「プリンセス・アリス」のドールが並べて売られているところなんて、容易に想像ができます。
というのも、原作「鏡の国のアリス」では、アリスは女王になるからです。原作を読んだことのある方はご存じだと思いますが、「鏡の国のアリス」のお話は、チェスのゲームを模した構造になっています。お話の最初ではアリスはポーン(歩)として進んでゆくのですが、最後には小川を超えて八の目にたどりつき、クイーン(女王)になる、という展開になっています。
(ところで、制作側が意識しているかどうかは不明ですが、ゲーム「キングダムハーツ」では、アリスは白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫、ジャスミン、ベル、そしてカイリと並んで、プリンセスの一人だったのを覚えていらっしゃる方もいるでしょう。)
 ところが、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(原題はAlice Through the Looking Glassで「鏡の国のアリス」)では、アリスはプリンセスやクイーンにはなりません。
というより、お話はほとんどオリジナルの展開で、「鏡の国のアリス」っぽさがあるのは、冒頭でアリスが鏡を通り抜けてから、ハンプティ・ダンプティを落としてしまうところくらいです。(赤の女王と白の女王、双子のトウィードゥルダムとトウィードゥルディーも「鏡の国のアリス」の登場人物ですが、前作から登場していたため、あまり「鏡の国」っぽさは感じません。)
お話があまりに原作とかけ離れているため、意図的に「プリンセスにしなかった」のかどうかは分かりませんが、「ディズニー」が(プリンセスにしようと思えばできたであろう)ヒロインをプリンセスにしなかった、というのはなかなか興味深いなあと思います。
 
◆その他の雑感
原作の『アリス』シリーズのファンとしては「登場人物の頭がマトモすぎる」「主人公が成長したり教訓を学んだりしないところが原作の『アリス』のいいところじゃないか」といった不満もあるのですが、タイムトラベルのギミックやタイムの城といった世界観はすごく楽しかったので、これはこれでアリかな。
ところで、今回の新キャラクター「タイム」は、原作の「ふしぎの国のアリス」において「時間」がしばしば擬人化されることからきているんじゃないかと思います。
いかれ帽子屋がハートの女王の音楽会で、「時間を殺そうとした(murder the time=歌の拍子をめちゃくちゃにした)」かどで首をはねられそうになり、怒った時間は永遠にお茶の時間が終わらないようにした、というエピソードが語られています。まあこれは「ふしぎの国」のほうのエピソードなんですけど。
タイムを演じるサシャ・バロン・コーエンの演技はとても楽しくて、個人的に今作のMVPは彼です。だんだん弱っていく姿とドイツ語訛りがセクシー。

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