Red Notebook 「エルサにガールフレンドを」、もしくはクロエにオリヴィアを 忍者ブログ
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ディズニーとか映画とか。All I can say is this: listen to me. My name is Raito. That is not my real name.
2024年04月24日 (Wed)
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2016年05月21日 (Sat)

なんだかこの話題について書くのも今更だし、言いたいことはツイッターでだいぶ言ったし、綺麗にまとめてくださってい方もいるし、こういうセンシティブな話題に私のような素人がいつまでもウダウダ言うのもなー、と思っていたのですが、未だにツイッターでたまにこの話題が流れてくるたびにモヤモヤするので、考えたことの忘備録という意味も含めてやっぱり書いておきます。


タイトルでお分かりかと思いますが、ちょっと前から話題になっている「エルサにガールフレンドを」のキャンペーンと、それに対して主に日本語圏のネット上で巻き起こった批判について。
そもそものキャンペーンのいきさつはこんなかんじ。

エルサに女性の恋人を」、アナ雪ファンの訴え広がる



私がツイッターでよく見かけた批判は、大きく分けると「ボーイフレンドがいないからガールフレンドなんて、カップル主義から抜け出せていない」「ゲイのキャラクターを出してほしいならオリジナルで出してほしいといえばいいのに、わざわざ既存のキャラクターをゲイにしてほしがるなんて」「ファンが公式に口を出すな」の3種類でしょうか。
まず初めに私の立場を明確にしておくと、「エルサには『恋人がいなくても幸せなヒロイン』像であってほしい。でも、エルサにガールフレンドを作って欲しいと言う人たちが間違っているとは思わない。」です。


「カップル主義だ」という批判をする人については、このキャンペーンをしている人たちが何故エルサにガールフレンドを作ってほしいのか、をかなり誤解している気がします。
「エルサに恋人がいないなんてかわいそう!でも女の子の恋人は男の子って時代でもないから、女の子の恋人がいい!」って話じゃないんです。
このキャンペーンが出てきた一番の理由は、「ディズニーをはじめとしたファミリー向けエンタメにおいてLGBTが不可視化されている」という、ずーーーーーっと前からある批判が元になっているのです。


例えば、分かりやすいのは私がことあるごとに引用するこの動画
「Disney Needs More Gay(ディズニーにはもっとゲイが必要だ)」。

全体的にはディズニーとLGBTの関係について述べられた動画ですが、最後の方でLGBTキャラクターの不可視化について言及されています。「(ほのめかしだけじゃなく堂々と)ゲイのキャラクターを出してくれ。もし僕たちゲイがファミリー向けアニメの中ですら『いないもの』として扱われるなら、いったい現実ではどう扱われればいいんだ?」


そして「なぜエルサの恋人という形でゲイのキャラクターを出してほしいのか」については、「エルサはマイノリティの解釈されており、特にセクシャルマイノリティの間で象徴的な存在と見なされている」ことが挙げられます。エルサがセクシャルマイノリティのメタファーと解される理由はたくさんありますが、
・見た目からは分かりにくい、「とある性質」(本人の意思で変えられるものではない)のために周囲から誤解され、嫌悪(恐怖)される。
・その「性質」を隠すために努力するが、それには大変な精神的苦痛を伴う。
・男性との恋愛に興味がない。
・ドレスがゲイゲイしい。
あたりでしょうか。後ろ2つは置いておくにしても、そもそも「特殊な能力を隠しながら生きなければならないキャラクター」がセクシャルマイノリティのメタファーとして描かれるのは、フィクションの世界ではわりとよくあることです。
ここまで読んでなぜエルサがセクシャルマイノリティの象徴とされているのかが分からなければ、「X-MEN2」でアイスマンが家族に自分がミュータントであることを打ち明けるシーンを30回くらい見てください。
(そういえば、「X-MEN2」でゲイのカミングアウトのメタファーとして描かれたアイスマンも、エルサと同じく氷を操る能力なんですね。不思議な偶然。)
「エルサのマイノリティ性をセクシャルマイノリティに限定しないでほしい」という意見も見ましたが、エルサのマイノリティ性はあの「雪と氷を操る魔法」からきているのですから、エルサに同性の恋人ができたところで他のマイノリティがエルサに感情移入することを妨げるものではないと思います。


私も、もしもこれが(仮に『メリダとおそろしの森』の続編が企画されていたとして)「メリダにガールフレンドを」というキャンペーンだったら、「男性との恋愛に興味がないキャラクターだからレズビアンだなんてどうかと思う」と言っていたと思います。でも、エルサはセクシャルマイノリティの象徴的な存在であるのだから、事情が違うじゃないですか。
つまり、「エルサにガールフレンドを作ってくれ」というのは、文字通り「エルサにガールフレンドを作る」ことを要求しているのではないんです。(ここをあまりに字義通りに受け取りすぎな人が多いと思う)
「エルサにガールフレンドを」は、「私たちセクシャルマイノリティを可視化してくれ」という必死の叫びと、「ディズニーが作ったエルサというキャラクターを、自分たちの英雄だと感じている」ことが合わさって出てきたキャンペーンなんです。
私は最初に「エルサにガールフレンドを」のニュースを聞いたときは、むしろ「いい加減LGBTのキャラクターだしてよ!あれだけほのめかしてた『アナ雪』の続編ならLGBTのキャラ出しやすいでしょ!って譲歩してきたのかな」という印象すら受けました。
「LGBTのキャラクターが欲しいなら新作でやればいい、わざわざ既存のキャラクターをレズビアンにしろというのはナンセンス」という批判も見ましたが、そもそもエルサのセクシャリティは作中で明らかにされていないんですよ。もしもこれが「エルサにボーイフレンドを」というキャンペーンだったら、「恋愛に回収するな」という批判は当然あったとしても、「既存のキャラクターをわざわざヘテロセクシャルに“する”なんて」という批判がこれほどまでに出てきたでしょうか?


「女性主人公のストーリーがなんでも恋愛の物語に回収されてしまうと、女性が恋愛をしないと幸せになれないという社会の思い込みを強化してしまう。」という意見には正当性があります。私も大賛成です。しかし、それを「ゲイの恋愛物語を描いてくれ」という意見にぶつけるとなるととても危険です。なぜって、今までどれほど「なんでも恋愛に回収されてしまう」と言えるほどのゲイの恋愛物語が作られてきたんでしょう?
ディズニーの長編アニメ55作のうち、男女の恋愛が描かれる映画が何本ありましたか?恋愛が主題にはならない映画が何本?じゃあ、同性同士の恋愛が描かれた映画は何本?
この非対称を無視して「なんでもかんでも恋愛に回収される」と批判するのはフェアじゃありません。
そもそも彼らのための「恋愛物語」が今まで十分に描かれてこなかった人たちが「私たちの恋愛をないものとして扱わないでほしい」という声に対して「まだ恋愛にこだわっているのか。なんでもかんでも恋愛に回収しないでほしい。」と言うのは、あまりにも傲慢だと思います。


それから、「ファンが公式に意見するなんて」という批判も良く見たのですが、ツイッターでファンが「こういう展開にしてほしい」と騒ぐ程度のことがなぜ製作者への脅威になるのか、正直私にはよくわかりません。もしもこれが「エルサにガールフレンドを作るまで、ディズニー社の前を一歩も動かない!」とかいう形のキャンペーンだったらどうかと思いますけど、ディズニーがこのキャンペーンを見て「こんなにもゲイのプリンセスが必要とされているなら出すべきだ」と思えばそうすればいいし、「アナ雪の続編で描きたいことはそれじゃないんだ」と考えているなら採択しなければいいだけの話です。
個人でお話を考えている小説家や漫画家に対してのキャンペーンなら、読者から「こういう展開にしてほしい」という声があまりにも多ければプレッシャーがかかって気の毒な気もしますが、ディズニーの長編アニメーションは大勢が集まって「ああでもない、こうでもない」と話し合いながらストーリーを決めていくスタイルです。そこに「世間的にはこういう展開を望む声もありますよ」という一要素が加わっただけのことじゃないですか。
そもそも、「アナ雪」はもちろん、「プリンセスと魔法のキス」「ズートピア」だって、近年のディズニーは過去作への批判に耳を傾け、それを克服するような作品を意欲的に作っているわけですから、「公式に意見するな」なんていうのは、観客の声と真摯に向き合おうとするディズニーの素晴らしい姿勢を貶めているとすら思います。


さて、ここまで長々と書くと「この人はどんだけエルサにガールフレンドを作ってほしいんだ」と思われていそうですが、最初に言ったとおり私はあくまで「エルサには『恋愛をしなくても幸せなヒロイン像』でいてほしい」派です。でも、「エルサに女性の恋人を作ってほしい」も「エルサには恋愛をしなくても幸せなヒロインでいてほしい」も、結局、エルサにどんな価値観を体現してほしいか……ディズニーにどんな価値観を描いてほしいかが違うだけで同じことなんです。そして、この2つはどちらも『アナと雪の女王』の映画から読み取ることは間違いではないし、どちらもすごく大事なことで、どちらかがより優先されるべきなんてこともありません。
だから、私には「エルサにガールフレンドを」と願う人たちを断罪する権利なんてないんです。

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