Red Notebook 江南駅殺人事件と『ズートピア』 忍者ブログ
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ディズニーとか映画とか。All I can say is this: listen to me. My name is Raito. That is not my real name.
2024年11月22日 (Fri)
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2016年05月22日 (Sun)

※注意:『ズートピア』のネタバレをしています※
日本語でまとめてある記事が見つからなかったので、現在把握している状況をメモする意味でもまとめておきます。



昨日、『ズートピア』の監督のひとり、バイロン・ハワードがツイッターでこんな投稿をしていました。
訳すと、「『ズートピア』は偏見の危険性を描いた映画だ。ある人からツイッターで『ズートピアがミソジニーを正当化するために政治利用されている』というメッセージを受け、僕は『そのことについてはディズニーが調査する。それは映画で描かれたメッセージとは真逆だ』と回答した。この返答は、明らかに『映画のテーマはあらゆる偏見は危険であるということだ』という意味だった。文脈から抜き出され、意味を為さなくなったツイートを見た人には申し訳ない。ツイートは消していないので、まだ読むことができる。誤解してしまった人たちが僕の意図を明確に把握できると良いけど。」というかんじでしょうか。


ん?と思って監督のツイートをさかのぼってみると、どうやら最近話題になっている「江南駅殺人事件」についてツイッターでやりとりがあったもよう。
女性嫌悪殺人、知らぬフリできない ソウル江南駅でポストイット追悼の波


簡単に要約すると、5月17日に江南駅で女性が見ず知らずの男性に殺害された事件で、犯人の動機が「社会の女性に冷たくされた」というものだったこと、「夜中に出歩くのが悪い」などと被害者の女性を責める言論がネット上に多く投稿されたことをうけ、「韓国におけるミソジニーを象徴する事件」として批判が高まっている、という状況です。
しかし、この「ミソジニー批判」に対し、「すべての男性を潜在的な犯罪者だと決めつけている、ミサンドリーだ」という批判をする人たちが現れました。犯人の男性が精神病を患っていたことから、「一人の精神病者がミソジニーゆえに女性を殺したからといって、全ての男性にミソジニーがあるかのように言うのは間違っている」とも。
彼らは『ズートピア』の「肉食動物/草食動物」を「男/女」になぞらえ、こんな画像を投稿しているそうです。

訳:①「本心で言ってるのか?/私はただこの事件の真実を話したのよ。女が男を殺しはしないじゃない。/そうか、俺みたいな男達は殺すと?/ニック。あなたは一般男性と違う。」
②「そうか、今度は『一般男性』達か?/私がどういう意味で言ってるのか分かってるでしょう。あなたはそんな種類の男性じゃない。/どんな種類だ?潜在的犯罪者?/一つだけ聞こう。お前は俺が怖いか?」
③「俺が殺人者に見えるか?お前を殺しそうか?/やっぱりな。/男を友達にしないほうがいいぜ。」

これを見たファンの何人かが、バイロン・ハワード監督に向かって「今、韓国ではこんなことにズートピアが使われているのです」と画像をツイートしました。またある人は、「韓国で数日前に、ミソジニストの男が罪のない女性を殺しました。この事件のあとに女性が男性を恐れるようになったので、ミソジニストたちは『ズートピア』の一シーンにおける捕食者を男性に読み替えて、ニックへの同情をミソジニーの正当化に使おうとしているのです。これについてどう思いますか。」と問いかけました。監督の返答は前述のとおり。
両者のやりとりについては、以下の記事に概要が載っています。(韓国語の記事ですが、引用されているツイッターでのやりとりは英語です。)
'주토피아' 감독 바이런 하워드가 강남역 살인 사건에 대해 입을 열었다(트윗모음)「ズートピア」監督のバイロン・ハワードが江南駅殺人事件について口を開いた」


バイロン・ハワード監督は「(ズートピアがこのように使われていることについては)ディズニーのしかるべき人物に情報を提供する」と言っていますが、この件について何かディズニー側が動くということはあるのでしょうか?


いやー、しかし「すべての男を潜在的な犯罪者だと決めつけるな」派と「夜中に出歩いた被害者が悪い」派でちょっと殴り合ってほしいですね。警戒すれば偏見だと言われ、警戒せずに被害に遭えば「おまえが注意しなかったのが悪いんだ」と言われるダブルバインド。
「一人の精神を病んだ男がミソジニストだからといって……」というのももちろん理屈は分かります。けれど、彼女を殺したのは犯人の男一人かもしれませんが、その後「夜中に出歩いている女が悪いんだ」などと批判した大勢の人たち(もちろんこれは男性に限らないでしょう)はどうなんだと言いたいです。
そもそも、「私たちの社会にはミソジニーが根付いている」という主張を「すべての男は潜在的に殺人犯である」と言われていると捉えるのはちょっと飛躍しすぎでは。
……でも正直なところ、『ズートピア』のこのシーンを見たときに、こんなふうに解釈する人がいるのではないかということを予想していなかったと言ったらウソになります。ボゴ署長が、「お前(ジュディ)の目にはすべての肉食獣が野蛮に見えているんじゃないか?」と問いかけるシーンもそうです。
『ズートピア』における「肉食獣/草食獣」の関係は単純にジェンダーや特定の人種等の属性に置き換えられるものではなく、だからこそ『ズートピア』は差別や偏見についての物語としてこれほどまでの完成度を保っているのだと頭では分かってはいても。


ところで、バイロン・ハワード監督が「僕のツイートを誤解している人がいるみたいだが…」と言っていましたが、監督のところにも「韓国のフェミナチは男性嫌悪」「韓国にはミソジニーなんてない」と食ってかかった人がいたようです。


そこで監督に食ってかかっていた人が言及していたことで知ったもう一つの江南駅殺人事件と『ズートピア』との関連が、「ピンクのゾウ」の事件。
被害者を悼む江南駅にピンクのゾウの着ぐるみを着たイルベ(日本でいう2ちゃんねる的立ち位置の巨大掲示板)のユーザーが現れ、


육식동물이 나쁜게 아니라
肉食動物が悪いのではなく
범죄를 저지르는 동물이
나쁜 겁니다.
罪を犯す動物が悪いのです。
선입견 없는 편견 없는
先入観のない、偏見のない
ズートピア 大韓民国
주토피아 대한민국
현재 세계 치안 1위 이지만
現在世界治安一位ですが
더 안전한 대한민국
より安全な大韓民国を
남, 여 함께 만들어요.
男女共に作りましょう。


と書かれたプラカードを持っていたところ、「被害者の彼氏」を自称する人物が主導して集団暴行に発展したとのこと。その場にいたという人のツイートによると、「言いたいことがあるなら顔を見せて言え!」と言われても着ぐるみを脱ごうとしなかったため、無理矢理着ぐるみを脱がせようとして失敗した、と暴行を否定する証言もある一方、「被害者の彼氏」を自称する人物は、ピンクのゾウの着ぐるみを押し倒した、という話もあります。(ちなみに、この被害者の彼氏を自称する人物は、監視カメラの映像と照合した結果別人の可能性が高いらしい。)
また、韓国においてはイルベはかなり反社会的なサイトとみなされており、暴行事件にまで発展したのはこのピンクのゾウがイルベのユーザーであるということを周囲にいた人たちが知ったことも大きな要因のようです。
(ピンクのゾウのユーザーは事前にイルベに「今からピンクのゾウの格好をしてデモしてくる」と書き込んでいます)
以上の情報については下記まとめサイトの内容を参考にしています。(韓国語)
https://namu.wiki/w/%EA%B0%95%EB%82%A8%EC%97%AD%20%EB%AC%BB%EC%A7%80%EB%A7%88%20%EC%82%B4%EC%9D%B8%EC%82%AC%EA%B1%B4#s-7.1


(ちょっと精神を削られる内容が多いのでリンクは貼りませんが、日本のまとめサイトでもこのピンクのゾウの件については取り上げているところがいくつかあるようです)
なお、私は全く韓国語がわからないため、このブログ中の韓国語の翻訳は全て韓国留学中の知人によるものであることを申し添えます。

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